コラム
自動販売機と温度にまつわる今昔話
温かい缶コーヒーを自動販売機で販売するというアイデアは、かつてのポッカコーポレーションの創業者、故・谷田利景氏のものでした。1970年頃のこと。谷田利景氏が休憩に入った岐阜県養老郡のSAが大変混んでいて、頼んだコーヒーが冷めていたのです。その経験が、いつでも温かいコーヒーを飲めるという自動販売機機能の開発へ結びついていき、ポッカの缶コーヒーの自販機はモータリゼーションを背景に爆発的人気に。日本独特の自販機文化の発展はつまり「温度」がきっかけであったのです。
現在の自動販売機での温度設定は、冷たいが1度から 6度 、温かいがおよそ52度から55度程度となっていますが、ここに温度によって差を出すやりかたが加わりつつあります。近年「+2度」をうたったコカ・コーラのキャンペーンが話題を集めましたが、温度設定が通常より2℃高く変更され、ホット製品すべてが〝よりあたたかく″提供されています。またホット、コールドに加えて新たに「常温(約20度)」の温度設定のある自動販売機もあり、こちらについてはアサヒ飲料が先駆けです。
温度管理には売り切れボタンが関係していることはあまり知られてはいません。売り切れとなっていても最後の一本は販売されずにそのままになっています。補充する時点では飲み物はまだ常温で、適温になるには時間がいります。1つだけきちんと温度管理されたものを残しておけば、補充後の販売再開がスムーズになるという仕組みです。また最近の自動販売機は省エネ仕様で搬出口に近い商品だけ適温になる構造なのですが、一つの商品に客が集中すると、適切でない温度の商品が出て来やすくなります。よく陳列が特定の種類に固まっている自販機がありますが、データに基づき販売効率を高めたという面だけでなく、常に適温の商品が提供可能になるという意味でも理にかなっています。